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ページ2 「ふぁ〜〜〜あふ」 光はサイクリングに行くと置手紙を残し、家を出ていた。考えてみれば自分が“力”を使えるのにその“力”を使える人間を見分けることは出来ないのだろうか。赤平は経験値熱めのようなことをしていると言っていた。それはつまり、“力”を使える人間を見分け、言葉は悪いが喧嘩を売り、そして倒してきたという事だろう。そしてそれに近しい事を自分もしなければならないかもしれないという不安と緊張が、愚痴をこぼすだけでは紛らわしきれなくなり、光はサイクリングに出ていた。 東へ、南北に走る少し大きな道へ出る。そこからとりあえず南下してみることにした。時折小さな小道へ折れて道に迷ってみる。 闇雲に走りまわると意外な場所へと繋がる。それを繰り返し少しずつ少しずつ南へ。 店の続いていた道は住宅街を横切り、いくつかの町工場を抜けると道幅も広まり両側の建物が急に高くなりだす。東三河市の中心、新城へと出てきたのだ。 「ふぅ〜、そういえば新城へも久しぶりに来たな……」 前述にもある通り新城は東三河市の中心地だ。南北に貫くJR飯田線は北は長篠を経て東栄佐久間。南は豊川を経て三河最大の町豊橋を結ぶ。東西に伸びるJR新城線は、西にトンネルを越えると額田を経て岡崎へ。東は引佐を経て新東京副都心の浜北へと結ぶ交通の要衝でもある。 もっとも高速道路だけは少し北へと逸れているが、商業、工業だけでなく、近郊農業も発達させた東三河市は、豊橋に次いで三河第2の市へと成長していた。 「む? 考えてみればこのあたりは“中”のテリトリーだったな……」 光はとりあえず適当な道を折れてその進行を北上へと変えた。往路と同じの無計画走行。 市街地を抜け、今度は少し畑の残る山に近い道を走る。光は林の中の小さな神社を見つけ、そこを休憩場所に選んだ。 それが、また運命を変える。 新城の市街地、光を見つけ尾行を開始した男がいた。片浜だ。 東郷高校はその立地から原付での通学が認められていた。一応根性で自転車通学する人間もいはしたが、商店街の片隅に学校専用の駐輪場が整備中でそれもいなくなるだろう。 その原付通学をする片浜は、光の家の東を通る南北に走る道を帰る途中光を発見し、“中”との対立でも見たかったのか尾行を続けていた。もちろん気付かれてはいない。部長を務めるだけあってソウイウコトにはプロ級の実力だ。 光は神社の境内に入るとその脇に座り、先程コンビニで買ったジュースなど飲みながら一息ついていた。そして、その境内の奥から、見なれた男が現れる。 「ほぅ、まさかこんなところで会うとはな」 その男を見た光は驚き、それは名前を口にする行為を呼ぶ。 「赤平!?」 「久しぶりだな。一週間ぶりくらいか。偶然にしては頻繁に会うじゃねぇか」 「まだ、この街にいたのか」 「この街は“力”の使える奴が意外に多く存在していてね。ぶらつけば、二日に一人くらいは会えるんじゃないか? もっとも、使えない奴ばかりだけどな」 「“力”の使える奴は、会えば分かる……のか?」 「? お前は分からないのか? じゃあ何故ここへ来た」 「……!!」 光は悟った。自分は“力”の存在を感じている。無意識のうちに分かっているのだと。そして今、“力”に関する疑問をぶつける相手として赤平が脳裏に浮かび、それが光をこの場所へと導いたのだと。 「そういう……ことか……」 「ふん。自分で質問し、自分で合点が行ったか。まあいい。そろそろこの街を出る。目的は今までと同じだ。何かあったら探せばいいさ。今のところ敵になる気は無い」 「……」 光は薄く笑んだ。赤平は続ける。 「俺は西へ行く。が、一つだけ言っておこう」 「……?」 「北へは……行くな」 赤平はそう言うと、目線も合わせずに境内へと消えていった。 一人取り残された光。静かな風の吹く境内で、光は一人ふるえていた。 最後の一言。あれはいったい何だったのだ。意味は分からない。分からないがとにかく寒気がする。 そしてそれは、取ることの出来ない寒気、だった。 視線を落としたまま、光はまた自転車にまたがると北上を始めた。今度は一直線に道を進める。もうサイクリングを楽しむことは元より何も考える事が出来ずにいた。 光は、ただただ足を動かすしかなかった。 「……“力”……って、何だ??」 神社脇の林の中で、息を潜めて二人の会話を盗み聞きしようとしていたのは片浜だ。もちろんのことながら写真もきっちり抑えている。今だその真相には迫ってはいないものの、次回の新聞の記事は決まったようなものだろう。 翌朝の駅前。 「ねぇねぇねぇ、昨夜のTV見た?」 “おはよう”の挨拶を交わすと、アキは何事も無かったかのようにユミに話題を振っていた。 「……何の話?」 さすがにユミはまだ冷めていた。アキが反省さえしていてくれればゆるそうとは思っていたのだ。しかしその可能性はゼロだった。 アキの悪ふざけは時として五人の関係をぐらつかせもする。そして今回は片浜も加わって、五人の関係は迷走を始める。 「新横浜市の事件でね、高校生が殺されるって事件があって……」 アキの演説は続く。TVの特集の内容だった。 ユミもたまたま番組は見ていた。内容は“力”についての他愛のない話だった。最近多くなってきた不可解な事件事故。それを全てその“力”によるものだと判明したかのごとく語る番組。確かに興味ある人間には面白い内容なのかもしれない。事実、アキを見る限りはそうだ。 「あぁ〜、あたしもそんな“力”が欲しいなぁ〜〜」 アキの話を軽く聞き流していたユミは、最後にぼそりとつぶやいた。 「間違えば人を殺しかねない力を、持ちたい、使いたいだなんて軽々しく口にするものじゃないわ」 「……、で、でも……さぁ、やっぱり人気者になれるし……」 「一瞬で外れ者ね。私なら隠し通すけど?」 「…………」 一言も喋り返さなかったユミのいきなりの反撃に、アキはしばし呆然とユミの後姿を見つめていた。 ヒカリは踏み切りの近くでノブと会い、長い坂を登っていた。 「光の様子、どう?」 「うん。元気元気。昨日もね、暗くなるまでサイクリングに行ってたんだよ。心配するだけ無駄かも(笑)」 「はは、あいつらしいや。家でじっとなんてしてられないんだろうな」 「まぁね。お父さんは留守番しろって言ったのに出てったからって言って、また大喧嘩してたけど……」 「仲良いんだねぇ」 「うん♪」 ノブは会話にアキを出さないようにしていた。いまだに微妙な雰囲気だったからだ。 まだどうも許せない。さりとて今アキを話題にすれば必ずや悪口になるだろう。陰口をたたくようなことだけはしたくない。 それはヒカリも同じだった。 ヒカリは知っていた。光が何か大きな問題を抱えている事を。態度には出さない心の中に、何か恐怖に似たものがあるのを。それはあの制御出来ない“力”に対するものとは違うことも分かっていた。それが何に対するものかはわからない。が、態度に出そうとしない光を見たヒカリは、誰にもそれを言わない方が良い。光にも聞いたりしない方が良い。そう、思いを決めていた。 なんとなくぎこちなさの残る五人。そして、片浜は動く。 「フッフフフ。いける。神野“北”統合に隠された真の“力”の謎!? ……」 クラブBOX棟地下、新聞部室に一人、片浜はパソコンを立ち上げ、授業も出ずに記事を打ち続けていた。 光謹慎中の2週間は、静かに、大きく動き出した。 ……つづく 前のページへ戻る 次のページへ進む 小説トップページへ戻る |