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ページ1 光が大野高の山鹿を倒して一週間が過ぎた。実は今までの話でちょうど一週間ほどしか進んでいなかったので、今の1文がこれまでの話と同じ時を表していたりするのだが。とりあえずこの一週間で光の噂は“北”中に広がっていた。特にアキが情報を流すまでもないことだった。 光の“北”統一。前にも書いたが東郷高校は“北”と“中”の狭間にある。“北”を統一したいわば中心地が、大野から一気に南下し、“中”との距離も相当近づいた、と言う事になる。 “中”の2強、西高は東郷から二駅南の東新町駅から西へ行った所に、その一駅南の新城駅から浜北へと抜ける数駅の先にもう一つの鍬田東高校がある。当然なのか“北”と“中”の小競り合いも確かにあったが、光の“不思議な力”の噂の浸透でそれも安定し少なくなっていた。 例の喫茶店で負傷した生徒も退院し、東郷もようやく平和になりつつあった。 「謹慎?!」 駅前でヒカリと会ったユミはその傍らにいつもいるはずの光の姿が無いことに気付きその訳を聞いていた。 「うん。結局二週間の自宅謹慎っていう処分が昨日出たの」 「でも、一方的に絡まれただけなんでしょ? それに随分怪我もしたって言うし……」 「だからこそ退学や停学にならなかったんだって、本人は言ってたけどね」 「光君以外の当事者はどうなったの?」 「全員1ヶ月くらいの謹慎処分が出たみたいだよ。ニュースにもなっちゃったし、処分は免れないよ」 「ふ〜ん。でも自宅謹慎とはよく言ったものよね。結局停学と同じじゃない」 駅横の線路を渡り坂を上る。なんとなく静かに感じる通学路。高校へ続く坂はいつしか地獄坂という名前が定着していたが、その土手には見事な躑躅が咲き始めていた。その赤さもかすんでいるかのように写る朝。 あまりに多くの出来事があっという間に起こりすぎたのだ。 ちょっと前まで当たり前だった笑いあいながらの登校が戻るのはいつになるのだろう。 と、知らず知らず脳裏に浮かんでしまうのは、ヒカリもユミも、ノブも、そしておそらくは……多分……そうであって欲しいんだけど……う〜ん、アキも……、同じだろう。 「……、で、今年に入り東三河市の自殺者数に増加現象が起きており、警察では……」 TVがニュースを流している。 光はベッドから起きるのも億劫になって寝転がったままリモコンを操作していた。 午前の中途半端な時間帯はどのチャンネルも「ワイドショー」。いつの時代も変わらずにスキャンダルを撒き散らす大物女性歌手だの不倫しまくる某男優がいるだの、奥様の食らい付く噂から視聴率を稼ぐ事しか考えない悲惨な事件の報道による人権の侵害。とりあえず真面目にニュースを流しているのはNHKと海外からの番組を流すケーブルTVの一部だけだった。 「けっ。自殺がなんだよ。こっちが死にたいくらいだってんだ」 ふてくされた光は、ヒカリの前ではおどけて見せたが朝食も食べずに自室にこもっていた。もっともヒカリにしてみれば、そのくらいの心は読めるのだろうが。 「お〜い、とりぇぁ〜ずきゃーしゃ行ってくるでなも。留守番しとってちょうぜぇも」 「あいよ〜」 父親の声に応えると、光はまたTVに向かって愚痴る。 「次のニュースです。新東京都福田区のビルで、爆弾によるテロと思われる事件が……」 「何が爆弾テロだ。オレなんか体の中に爆弾抱えてるようなもんじゃねぇか」 さて、学校では、一人だけいつもと変わらないのがいた。 「え〜〜?! 光も謹慎食らっちゃったの〜〜?」 「しぃぃ〜っ。アキ声が大きいよぅ」 アキに噂を聞かれてしまったノブとヒカリは、凄まじい罪悪感を感じたという。 「なによー、どうせそんなのすぐ構内放送かなにかで流れちゃうわよ」 「そ、そうかもしんないけど、そんな大声で言わなくても」 「ふ〜ん、でも、これであの事件も公表できるわけだ♪」 「ま……まさか…… Σ( ̄□ ̄;」 驚きで固まったノブとヒカリの視線を背に、アキは教室を出ていく。 「ち、ちょっとま、ちょっと待てよ! おい、アキちゃん!!」 ノブがアキを追う。廊下に出るとわいわいがやがやと大勢の生徒。ノブはアキを見失った。 休みが終わり4限。アキは授業に出てこなかった。ノブにはその行き先が容易に想像できた。新聞部の部室だ。アキと共に新聞部に入ったクラスメイトの八戸恭子も同時に授業に出ていない。ノブの後悔は募るばかりだ。 新聞部室はクラブボックス棟の地下にあった。クラブボックス棟は運動場の南端にある地下1階地上2階のL字型の建物だ。2階の一部と1階が運動系の部室。その他が文科系の部室で、地下1階は例の地獄坂の途中に出られる立地だ。正確には半地下で、運動場から見て地下、坂から見れば階段の上に当たる。坂の途中にある階段を上ると、クラブボックス棟の地下1階の通用門に出られるという構造だ。 さて、その地下1階にある新聞部部室では、アキの情報を元にリアリティー溢れる(?)記事が作られていた。号外版が出るらしい。 「白昼の惨劇! 東郷vs大野、その全貌……か。今年のルーキーは期待できるやもしれんな」 「へへへ……」 アキにお褒めの言葉をかけているのは新聞部部長、片浜政孝その人だった。この片浜政孝こそ、この新聞部の活動を支える3代目部長であり、この高校ではもっとも恐れられる人物と言って良い存在だった。ちなみに3代目とは、新聞部が今のようにフォーカス部と呼ばれるようになって3代目という意味であり、新聞部自体はその前から存在していた。 そして、昼休みは訪れる。 4限終了間際。アキの指摘通り校内放送によって光や陸奥達の謹慎処分が発表された。その直後の昼休み。休憩室、屋上、そしてBOX棟の前の3ヶ所で新聞部号外が配られていた。 「号外号外〜〜。今の放送の詳しい内容が載ってるよ〜〜!!」 屋上では、アキと八戸が担当となって声をあげていた。当然ノブ、ヒカリ、ユミの三人はそこへ現れる。 「あ、あんた達もいる? 号外」 アキは明るい言葉で三人を捕まえた。が、さすがに三人はいつもと態度が違っている。 「アキ、こんな事して良いと思ってるの?」 いつもは温厚なユミまでもが、今回ばかりは怒りをあらわにしている。 「だ、だ〜ってどうせばれるならこーやって変な噂が立っちゃう前に明らかにしておけばさぁ……」 「にしても友達のする事じゃないよ」 ノブも即答する。 「そ、それに光の悪口なんてひとことも……」 「やってることが人権侵害だよ」 ヒカリも珍しく意見を返す。 「う……、うぅ〜……」 「真実を伝える事のどこが悪いのよ」 と、反論してきたのは八戸だった。 アキの旧友でもある八戸は、類が友を呼んでしまった典型のような、つまりはいわゆるアキと同じ性格をした人間だった。 「仮に絡まれたり巻き込まれたりしたんだとしても、もっともその辺は忠実に記事にしてるんだけど、それでも神野君が喧嘩をして、結果向こう(大野高)の生徒を病院送りにしちゃったのは事実なのよ! しかもその数日前には北高の田川とか言う番長まで倒して警察に御厄介になってたって言うじゃない。それをみんなに知られたからって、こっちを悪者呼ばわりなんてしないでくれる?」 「…………」 「それにさっきアキが言ってた通り、尾ひれをつけてない分感謝して欲しいもんだわ」 「そのと〜〜〜〜〜〜〜り!!!」 八戸の強烈な力説に圧倒され、押し黙ってしまった三人に追い討ちを掛けるかのごとく登場したのは、新聞部部長の片浜だった。 「我々の書いた記事は事実に忠実な物であり、君達のような身近な視点ではなく、完全なる第三者の立場によって書かれた物だ。君達のような意見があるのであれば、当然、今回で言えば大野高校側の意見も存在している。それらに対し、贔屓の無い事実を完全に一般に公開することによって、回りからの批判を受ける。この情報は全員が知りたがっているものであり、それを知らしめて何が悪い。我々は……」 3人は帰るしかなかった。そして、新聞部はさらに動き出す。 ……つづく 前のページへ戻る 次のページへ進む 小説トップページへ戻る |