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ページ4 「ねえねえ、光ってホントはすごく強かったんだねぇ」 堤防まで走ってきた二人はとりあえず歩き始めた。 「う〜〜ん、やっぱり思ったとおりよ。脳ある鷹は頭隠して尻隠さずとはよく言ったものよね」 「・・・・」 「凸( ̄へ ̄) を〜〜い、ノリが悪いぞ」 あきが振り返った後ろを歩いていた光の顔は、なにかに驚いた顔だった。 そして光は振り返る。 今歩いてきた道には、一人の男が立っていた。 「あ……、お、大野高……」 ガクランを見たアキがぼそりと漏らしたのは高校の名前だった。 「神野……光……だったかな?」 「お前が……山鹿か」 二人は静かに対峙した。今度はとりあえず人目は無い。もっとも百人分の目を持ったのがいるが、そのアキに気付かれないように“力”を使う事は出来る。光はそう考えていた。 「アキ、下がってろ。もう止められない」 「……、う、うん」 さすがのアキも体が硬直していた。光の言葉でようやく後ろへ後ずさる。 「お前、結構強いな」 山鹿はその場で立ったまま話しかけてきた。 「結構どころじゃないかもしれないぞ」 光の頬を汗が流れる。 「いろんな使い方があるんだなぁ」 山鹿は嘲笑しながらそう言うと、ファイティングポーズを取った。光はその言葉が何を意味するか分からず、その不安が一瞬遅れる。 と、刹那。山鹿は間合いを詰める。 「!!」 光は左正拳を突き出すのがやっとの反応だった。それは山鹿の顔を捉える。 「残像!?」 山鹿は光の左側にいた。 左腕が光の首に巻きつく。 「んぐぅ!?」 そして山鹿の左脚が光の脚を跳ね上げる。 瞬く間も無く光の体は上下が反転。同時に山家は体勢を低く下げる。 もちろん、左腕は光の首に絡みついたまま。……、光を頭から、アスファルトの地面に叩きつけるために! 「キャァァ〜ーーーッ!!」 アキが悲鳴を上げて両手で頭を隠した。 ―――死んだ。 はっきり言ってしまうならば、そう思ってしまった。 アキは、それでもゆっくりと目を開けた。そこには……。 「ハァ……ハァ……」 光が立っていた。 光は投げられた直後、首に巻かれた腕を解こうとした両腕を戻し、そのまま地面を捉え、ちょうど後方宙返りのような形でそれを逃れていた。もちろん、腕には“力”をためて……。 一方の山鹿は、その咄嗟の行動を読めず体制を崩したが、やはりすでに立ち上がっていた。 ―――こいつは形振り構っていられない。 光は集中力を高める。もう周りを見る余裕もない。 山鹿は、反対に笑みすら浮かべて構えを取った。 そして、またぶつかり合う。 ガッ! ドスッ! 拳の痛々しい音が響く。両者一歩も引かない攻防。しかし、押され始めたのは光だった。スピードが半端じゃない。と、 「うぐぅっ……」 光は腹に一発、もろに拳を食らうと少し体をぐらつかせた。構わず山鹿はひざをかち上げる。光は両手でガード、し、そのまま体が後ろへ吹き飛ぶ。 ガシャッ。 体が少し宙を舞い、堤防のフェンスにぶつかる。と、光の脳裏にあの言葉が浮かんだ。 ―“力”の使い方はなにも放出するだけじゃない。技を使う人物の想像と技量によってどうとでも扱えるんだ。 「……そうか!」 光がつぶやく。と同時に目の前に体(たい)を入れてきたのは山鹿だ。 「……くっ……!」 またも攻防が始まる。今度は互角の攻防だった。スピードは早まりこそすれ遅くはなっていない。それでも、光は打ち負けない。 山鹿のそれに対する一瞬の困惑を、光は見逃さなかった。 「いくぞっ!」 「……!?」 光の掌が山鹿の胸に押し当てられる。 「ハァァーーーーーッ!!」 “力”の放出。同時に山鹿の体は……吹き飛ばない!! 「な、何ぃっ!?」 一瞬だった。光は体をこわばらせた。 そして、その刹那を、山鹿は見逃さなかった。 ゴッ! 膝が光の腹を捉える。 「ぐふっ!」 痛さと共に光の上体が前へ倒れる。その頭上に山鹿の拳。 「くそっ!!」 ぐらついた意識のまま光は頭から山鹿に突っ込む。 「!?」 油断。が山鹿にあったかどうかは分からないが、山鹿と光はもつれ合ったまま倒れた。やっと立ちあがると、二人は対峙する。 ―何故吹き飛ばない!? 光はそれが頭から離れなかった。それは、山鹿の優位に結びつく。 肉弾戦は続いていた。もう何分経っただろう。光は体中に痛みを感じながら戦っていた。 一方の山鹿は、なぜかまったくと言って良いほど疲れが見えない。 「ぐはうっ!」 そしてついに光が片膝をついて倒れた。山鹿もさすがに息は切らしている。 「ハァ、ハァ、しぶてぇ野郎だな。……普通の奴じゃぁ勝てないわけだ……」 「……!?」 光には、一つの考えが浮かんだ。 アキが言っていた。 ―最近超能力を持った人間が増えてるんだってさ。 赤平が言っていた。 ―“力”の使い方は何も放出するだけではない。体に纏うも良し、スピードを上げるも良し……。 そして、山鹿は言っていた。 ―いろんな使い方があるんだな。 光の集中力が見る見る上がって行く。もう悠長なことは言っていられない。相手は“力”を使っている。ダメージを受けないよう、おそらく体をコーティングするかのように。そして“力”を使うとなれば、冗談では済まされない事象が伴われるのだ。 『死……』 「どうやら気付いたらしいな」 山鹿のつぶやきに光が反応し、二人の緊張感はさらに高まっていった。 「お察しのとおり。オレも“力”が使える。オレ以外では君は3人目だな」 「……3人目……」 光は山鹿で二人目の男だ。そして赤平も何人かと会っているのだろう。いったい、どれくらいの人物が本当に“力”を扱えるのか。そしてもし、そんな人物がいるのなら、この近くにはあと何人くらいいるのだろうか。 「いろいろ考えてるな。どのくらいの男が“力”を使えるか……か」 「!?」 ニヤリ、と、不敵な笑みを浮かべると、山鹿は光に突っ込む。 「戦いでは、常に自分を優位に立たせることだ」 まさにその言葉通り、光はまたも優位を奪われた。心を読まれたという焦りが光の平常心をぐらつかせた。 それは確実に隙となって現れる。もちろん山鹿はそこを突かない手は無い。 常勝。北に大野の山鹿有り。その意味はここにあるのかもしれない。 非情。そして“力”。負ける要素は、無い。 「うぐぅっ、……くうっ……」 度重なる対決。長引く対峙。それは全身に痛みと疲労をためていく。そして、山鹿はだんだんと動きの鈍くなる光に対し、その攻撃を止めた。 ―こいつ、何か持ってやがる。 光は両手を力無く下ろし、静かに、しかし息だけは荒く立てていた。 「ふぅ〜ーー〜、ふぅ〜〜ー〜ー」 空気が固まった。そんな感じだった。誰も、指一本動かせない。と、光がつぶやく。 「アキ、逃げろ。止まら……なくなる」 「う……ぁ……ぅ……」 威圧されたかのように、何かに押し出されるかのように、アキは走り出した。涙を流し、声にならない悲鳴と共に、アキは北へ……。 その片隅、小路の土手下に、彼女はいた。 「お兄ちゃん……」 山鹿はまだ動かない。動けなかったのだ。光は隙だらけだ。少なくともそう見える。しかし、なぜかそこに攻撃が出来ないのだ。 「フ、フフフ、おい、こいつ、いったいなんだ?」 山鹿はつぶやいた。今まで一方的に攻め、そしてもう負けるはずの無いはずの山鹿。その上に来る恐怖。 「おい。……答えろ。こいつ何なんだよ……?!」 山鹿は明らかに怯え、誰かと話しているかのように口を開いていた。いったい誰と……。 光は、まだその場にいた。と、頭の中に声が響く。 「お兄ちゃん、聞える?」 「ヒ……ヒカリ?!」 「意識の……同調?」 光はヒカリの新しい能力に驚くと共に、一つの疑いを持つ。 「じゃあもしかして、山鹿のつぶやきの相手は……」 「多分そう。私は会話が出来るのってお兄ちゃんくらいだけど、もしこの“力”を強く持ってる人がいれば、多分他の……あ……」 「ど、どうした、ヒカリっ!?」 はっ、と気付いた山鹿は、目の前の光の様子の変化に気付いた。 ―――行ける! 山鹿は光に突っ込む。光もそれに応戦した。 「何っ!?」 光の攻撃のその速さに、山鹿は避けるのが精一杯だった。そして、 「ヒカリっ!」 光は振り返ると走り出す。 山鹿はしばらくあっけに取られていた。光は1−2本先の小路へと走りこむ。そこには……、地面に倒れたヒカリと、立ち尽くす一人の男がいた。 「き……貴様っ!!」 光のただならぬ殺気に男が振り返る。 「大野高……」 男は大野高の制服を着ていた。 「てめぇ、山鹿の手下か。そうか、お前が俺の意識を山鹿に流していやがったんだな?!」 「あ、いや、その……うわがっ」 光は土手から男へ地面への着地すらせず直接飛び蹴りをいれる。 男はあっけなく吹き飛んだ。 「ぐ……ううぅ」 「ヒカリに、ヒカリに何をしたっ!」 倒れた男の胸座を掴み、強引に体を起こした光は、只ならぬ形相で詰め寄る。 「さ、殺意の塊を……流し込ん、ぶっ」 男が答えるより先に光は強烈に男を吹き飛ばした。と、直後、背後に気配を感じる。 「しまった!!」 振り返るより先に後頭部を強打された光はその場に倒れた。その薄らぐ意識の中に山鹿の声が聞えてくる。 「こいつが二人目の能力者だよ。別にこいつがいなくても番くらいは張れるがね」 「うぅ……」 「残念ながら君が負けたという噂は、北と中に広めさせてもらう。変わりにもう一人の能力者を教えといてやるよ」 光は意識が飛びそうになるのを必死でこらえていた。菊地のときと同じだ。意識が飛ぶ事は、相手にとっても自分にとっても脅威なのだ。 「……鍬田東の小林だよ。あいつぁ強ぇぞ。ま、潰し合いでもしてくれると助かる」 山鹿の声はかすれていく。それはまさに、光の中の“何か”を起こし始めることに繋がる。そして……。 そして、光は立ち上がった。 「ばかなっ!」 ついに山鹿の優位は完全に崩れた。と共に、光も、その箍が外れそうになっていた。 「手でしか、“力”は使えないはずだったのに……、頭を打ったはずなのに……、なぜだっ!」 「東郷に、手は出させない!」 光は掌を前へ出す。山鹿は動けない。 「これが“力”の使い方だ」 ゴゴゴゴゴゴ……!! 空気が渦を巻く。空間の歪みが掌に集まる。そして、それは放たれた。 ドウゥッ!! 「ぐわうっ!」 山鹿は咄嗟に手を前でクロスさせてそれを受け止める。 コーティングされた体。“力”など使ってもほとんどそれをはじき返してきたその体。しかし、山鹿は片膝をついた。“力”を、受け止める事も避ける事も出来なかったのだ。 「くぅ〜〜、バカな。威力もスピードも桁違いじゃねぇかっ……」 「次は、殺す」 「なっ……」 蛇に睨まれた蛙。山鹿はその場で固まるしかなかった。 光は、どうにもならないその体の中で、意識だけを保っていた。 ―よせ、やめろ! 本気の攻撃は、本当に人を殺してしまう!! 山鹿はまだ動けない。 ―今体を動かしてるのは誰なんだ! もう一人の俺? それとも、これがホントの俺なのかよ!! 山鹿はまだ動けない。 ―動けよ。いや、止まれよ! 俺の体だろう!! 俺の意志で動けぇ〜〜〜!! ハッ、と起きたのはヒカリだった。強く大きな声が響いてきた。それは悲鳴にも近い光の心の叫び。 「お、お兄ちゃん?!」 ヒカリはゆっくりと体を起こす。目の前で行われているそれは、殺人未遂! 「だ……ダメェェェ!! 正気に戻ってーーーーーーーーっ!!!」 「くっ、う、う……」 光は、腕を振り上げたところで止まった。 山鹿は、もはや動けるような精神状態ではなかった。 「お兄ちゃん……、え?」 そして、ヒカリの目の前で、光は、“力”をためこんだその振り上げた腕を、振り下ろした。 「うおぉぉをおおををーーっ!!!」 「だ、ダメェェェーーーーーーーー!!!」 悲痛なるヒカリの叫び声。その前で、光は“力”をためこんだその腕を振り下ろした。 ビッキィィイィーガッゴオォーーー!!! 「!!」 ヒカリは止めることも出来ず、その場にいた。 アスファルトの地面が大きくえぐられている。信じられない“力”。人がこんな物を食らえばひとたまりもないだろうその拳は、山鹿を掠めその目の前に落ちていた。 「ハァ……、ハァ……、ハァ……、う……」 光はそのまま横に倒れこむ。山鹿はそのあまりの光景に気を失っていた。 アキの呼び出しで掛け付けたノブに連れられ、光が目を覚ましたのは自宅だった。 「あ、気がついた。良かった〜〜」 部屋に入ってきたヒカリが光を見てつぶやいた。窓の外はもう闇だ。 「体、大丈夫? 一応御飯はあるんだけど……」 「……、とりあえず一人にさせてくんねぇか」 「あ、うん。ゴメン」 ヒカリがそう言って部屋を出ると、光は色々と考え始めた。 殺意の制御は未だに出来かねていた。ヒカリの声が届かない限り暴走してしまう“力”がまだあるのだ。おそらくは制御できる“力”で勝てるのは田川クラスの男までだ。今日の山鹿や山鹿の言っていた鍬田東の小林。それに赤平に対するとき。またオレは暴走しそうになるのだろうか。 しかしなんにせよこれで山鹿を倒(の)してしまった事になる。それはつまり“北”統一にすら準ずる結果といえよう。となれば、“中”との小競り合いも始まるかもしれない。“北”で下克上のターゲットになる可能性もあるだろう。 赤平の言う「常に戦いの中に身を置」く状況に、オレは入ってしまったのか。 「ふうぅ〜〜〜〜」 と、光は大きく溜息をついた。 とにかく“力”を完全にしなければならない。この中途半端な状態は危険なのだ。より強い相手に殺されかねない反面、自分も殺人者になりかねない。“力”を制御し、手加減の出来る人間になる。それを目標に頑張るしかない。 光はベッドから起き上がると、全身に痛みを感じながら部屋を出、階段の下の台所へ向かう。 「え? あ、お兄ちゃん……。ど、どうしよう……」 「?」 「御飯、さっきお父さんが食べちゃったよ……」 「ぬ…… 凸( ̄へ ̄)」 この晩、三日連続の親子大決戦が繰り広げられたのは言うまでも無い。 「くそじじぃ〜〜〜〜〜 凸( ̄へ ̄)!!!」 第2話 「喧嘩」 了 事後の言い訳を聞いてみる 前のページへ戻る 次のページへ進む 小説トップページへ戻る |