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ページ3 翌朝、光とヒカリは川を渡ったゲームセンターの角でユミと会い、駅前を通って学校へと向かっていた。 「……、やっぱりユミちゃんにも伝わってたか」 「フフ……。そりゃぁあのアキが作った噂話だもん。まずは私のところに来るわよ」 「ったく。俺の事考えてねぇなあのアマ。もしこの噂が大野の奴らに知れたら」 「そ……そうよね。光くん……大丈夫……なの?」 「ん? 今のところはね。それに、アキを止めるなんて無理だろ? 万が一アキを止めても、噂は止まらないしな」 3人が登校し授業を受けている頃、大野高校では動きがあった。 「馬鹿野郎!!!」 校舎から離れた校庭の隅にあるクラブボックス塔。サッカー部の部室が山鹿達の集まる場所となっていた。 「てめぇら勝手に東郷行った挙句神野とかいう奴に負けただァ?!」 怒りをあらわにしているこの男は山鹿の側近(腰巾着)菊地。喧嘩で逆上するとすぐエモノを出す危ない奴だが、なるほど確かに強いことは強い男だ。 「よせ。で、その妙な技ってのはどんな感じだった?」 部屋のすみに置かれたソファーにどっかりと座り煙草を吸っていた男が、山鹿だった。 「……それが……。腹に手ぇ当てて、気合っていうか、とにかく二人を吹き飛ばしたんです」 「ほう。なかなかの威力って訳か。にしても妙だな。たしかあそこをしきってた奴は神野なんて名前じゃなかったと思うが……」 「陸奥だ」 菊池が会話に割って入る。 「あいつにゃぁカリがある。山鹿……」 「へっ。ま、妙な技って奴に気ぃつけな。余るようなら、俺が出てやるよ」 「いらんさ」 そして、事件はその日の午後に起きる事になる。 昼休みの屋上。アキは光に首根っこをつかまれて悲鳴を上げていた。 「ちょ、なにすんのよ!」 「タコハゲ! てめぇ、また妙〜〜な噂流してるらしいじゃねぇか、あ?!」 「え?? 何のこと? 信頼のおける事しかしゃべらないこのアキちゃんに向かって、それはまた変ないいがかかかかか、痛いってばっ!」 「なら俺がこの前の公園と同じ噂作ってやるよ、今ここでっ!!」 「きゃ〜〜〜〜、目がマジ〜〜〜〜〜〜」 何じゃれてんだか。 さて、午後の授業、学校をふけて町へと繰り出している男たちがいた。陸奥達だ。いつもの喫茶店にいりびたる。駅の少し北側にある小さ目の一寸薄汚れた感じの喫茶店だ。落ち着いた雰囲気のするこの喫茶店が、今日はいつもと違う状況へと、流される。 「ファ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ァフ」 「お、大きなあくびねぇ……」 放課後、光とアキが帰っていた。ノブは部活、ユミとヒカリとは会わなかったので暇な二人で帰るところらしい。 急な坂道から商店街に出る。ここの並木はトウカエデだ。秋には綺麗な紅葉を見せる。高校への坂には桜が植えられていて、小さな道なので掃除もされず花びらが側溝に残っている。 商店街のゆるい坂を下り踏切を越える。二人は他愛も無い会話で時間をつぶしながら駅前へとやってきた。アキはここから電車通学だ。 「んじゃな。そのまま辰野まで寝過ごすなよ」 「誰が 凸( ̄へ ̄)」 二人が別れの挨拶を交わすとほぼ同時に、駅前商店街で異変が起きた。 −−−ガシャン!! かなり大きい音。ガラスの割れる音だ。光とアキを含む駅前のほぼ全員であろう人がにわかにざわめき、音の源を探す。 「人だ! 人が倒れてるぞ!!」 「血だよ血ぃ〜。なんだよあれ?」 「喧嘩だ! 高校生が喧嘩してるぞ。あっちの喫茶店だ!」 この流れに、アキが乗らないわけは無い。 「お、おい、どこ行くんだよ!」 「日本人なら野次馬っしょ?」 「……ったく、あのアホ」 言うと光もアキの後を追う。喫茶店の前にはすでに人だかりが出来ていた。 倒れていたのは、東郷の生徒だった。 喫茶店では東郷の生徒が数人でだべっていた。窓際の一番奥の席がいつもの指定席だった。思い思いにコーヒーなど飲みながら煙草を吸っている。そこへ入ってきたのが菊地達だった。 ガタガタッ! 数人が立ち上がる。数は4対5。大野が一人多い。先にも書いたが東郷の番を張っているのは陸奥。ぴりぴりとした緊張感の中どっかりと座ってカップのコーヒーを口に運んでいる。 「神野を出せ」 口火を切ったのは大野高の男だった。 「神野? って誰??」 「てめぇ……」 対立の波は、止まらない。 喧嘩の形は3対4。陸奥はまだコーヒーをすすっている。菊地はカウンターの前で笑っている。優勢は東郷だった。一人、二人と床に倒れ、苦しそうにうめく。 そして大野の4人が倒れたとき、東郷はまだ一人が立っていた。と……、 「はぁ、はぁ、うぐぅっ!」 菊地がすぐそばにあった椅子をその男の頭にぶち当てた。 「ちっ」 流石に陸奥も立ち上がる。が、それよりも早く菊池が動く。足元に倒れていた大野の男もかまわず踏みつけ、椅子を当てられふらついていた男の頭をつかむとおもむろにテーブルにたたきつける。 −−−ドゴォッ 音と共にテーブルには血が飛び散り、砂糖などが乗っていたのだろう皿と小ビンが下へと転がる。 「てめぇっ!!」 叫ぶ陸奥に目もくれず、菊池はそのまま男を担ぎ上げると窓の外へと放り出した。 −−−ガシャン!! かなり大きい音。ガラスの割れる音だ。それは駅前のほぼ全員であろう人を降り返させるに充分だった。 菊地に突っ込んでいった陸奥は直前でそれを止めた。 鼻先を椅子の足がかすめる。 「〜〜〜、つくづくてめぇには愛想が尽きる」 「お褒めに預かって光栄だね」 菊地はそのまま椅子の足を陸奥へとたたきつける。言うなれば素手対棒術。避けきれるわけもなく陸奥は腕をはじかれ、その痛みの隙に顔面に一発くらって体をぐらつかせた。 「おいおい、番長がこの程度でやられるのかぁ?」 「へっ。言われなくとも、倒れやしねぇさ」 菊地は棒を下から上へ、顎元を狙って打ち上げる。 かろうじてよけた陸奥は左腕を菊地の右腕(棒を持ってる方にょ)へからませて左足で右足を踏みつける。 「くっをっ!」 刹那、右手で棒を持つ菊地の右手の指をたたきつける。 「ぐあっ」 その回転のまま右肘を菊地の顔にたたきつける。 ゴキャッ 鈍い音と共に血が飛ぶ。呻き声と共に男が片ひざを折る。打ち勝ったのは、菊池だった。 「肘の次に壊れるのは……お前の頭だっ!」 肘をくらいそうになった菊池はそれを頭で受けていた。そしてそのままその頭を振り落とす。 −−−ゴキィィッ!! 無気味な音と共に陸奥は前のめりに倒れた。菊地の石頭が後頭部へ打ちこまれたのだ。 人垣をかいくぐってその場面を見た光は、最前列から前へと歩んでいた。もちろん菊地もそれに気付く。 ニヤリ、と、不敵な笑みを浮かべて菊池は視線を移した。もちろん視線の先は光だ。 「ヒ、ヒヒヒ……、かみのぉぉをををを〜〜〜〜〜〜っ!!!」 「てんめぇーーーー!!」 「え? ちょ、光っ!」 止めそこねたアキが人垣の間から叫ぶ。 体に似合わず菊地は身軽にガラス窓の穴を飛び抜けて道へ出た。姑息にも手にはまたも椅子の足だ。 「うあ〜〜っはは〜〜〜」 「くっ!」 笑いながら菊地は、おもむろに体を回転させ勢いをつけて、椅子の足は光を襲う。光はよけきれず両腕を顔の前に出してガードする。 「もらった〜〜〜っ!!」 菊地が叫ぶ。誰もが思っただろう。『腕が折れる!』。しかし、結果は違った。 −−−バキィッ!!! 椅子の足をへし折った光はその場で、正確にはスピードを止めるのに一歩半かけて体を止め、大きく肩を振り裏拳を菊地に叩き込む。 「ぶほっ!」 菊地はそれを受けて前へ2-3歩つんのめりそうになりながらこらえる。そして振り返り恐怖した。 −−−こいつ、腕にまともに食らったのに……何故……。折れなかった、のは良しとして、その直後にその腕で反撃、だとぉっ!? 人目がある。アキすらいる。しかしそんな事すら考える余裕は光にはなかった。 「すぐに東郷から出ていけ。でなきゃこの場で、お前をぶっ潰す」 「く、くくく……くく」 菊地は笑った。しかし、今までの不敵な笑みとは、違っていた。そう、恐怖から逃れるためのものだった。もうメンツなんてどうでも良い。こいつは本当になにか不思議な力でも持っているのでは。 菊地は逃げる事を考えた。……が。 「!!」 人垣の中にある男を見つけ、菊池は後に引けない事を知る。 「うあぁぁぁ〜〜〜っ!!」 菊地は光に突っ込む。右正拳。単調な攻撃は軽々と受けられる。と同時に左正拳。結果は同じ。二人は両手をふさがれた形となる。……と、 「つぶしたらぁ〜〜〜〜〜!!」 得意の頭突きだ。光は一瞬遅れてそれに迎え撃つ。 「ぐぅぅ……」 光がやや打ち負けた。眉間が割れて血が流れる。が、かまわず2発目。今度は相打ち。光も負けられない。しかし優勢はあきらかに菊地だった。 光は手(腕)でしか“力”は使えない。この打ち合いはがたいの良い、しかも石頭の菊池の方が明らかに有利なのだ。 そして3発目。光の眉間の傷がさらに開く。 まずい。意識が飛ぶ。負ける。……、いや、ちがう。またアレが起きる。殺意の塊が……。オレが起きるっ。 「うおぉおおぉぉ〜〜〜〜」 「な、なにっ!?」 光は手に“力”をためた。みるみるうちに菊地の顔が苦痛にゆがむ。が、かまわず頭突きを打ちこむ。 ガッ!! 一瞬早く頭と頭の間に拳が滑り込む。当然拳を握っていた菊池の方がダメージは大きい。 「うぐっ」 そして菊地の動きが止まる。その隙をついて光は掌を胸のあたりに押し当てた。 直後。 「ハァァーーーーッ!!」 “力”の放出。菊地の体が数メートル後方へと吹き飛ぶ。 菊地は、もう、立ち上がる事は出来なかった。 「あ〜〜〜っ!! やっと警察が来た〜〜!! 駅の方!!」 あまりの出来事に人垣のざわめきが消えた瞬間、聞き覚えのある大きな声が、あたり一面に響く。それは全員を駅へと振り返らせる。 と、人垣から光に向かって飛び出したのはアキだ。 「ちょっと、なにボケっとしてんのよ!」 「はぁ、はぁ、……ぬ?」 「逃げるの! はやくっ!!」 アキに手を引っ張られ、光はふらつく足取りでその場から回避した。 駅前通を北へとりあえず何本目かの小道を折れて川の堤防へと出る。さらに北側の橋を渡って光の家へと向かうわけだ。 二人は堤防を歩く。人垣から一人の男が追っている事には、まだ気付いていない。 ……つづく 前のページへ戻る 次のページへ進む 小説トップページへ戻る |