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ページ4 「君の力が見たい」 「力? 何の事だ?!」 光のほほを汗が一線流れる。 フ……と、赤平は一旦目を逸らすと再び光を見て言った。 「田川を吹き飛ばした、あの"力"だよ」 「お……まえ、何か知っているのか!?」 「君こそ、何も知らないのかい?」 問答は無用。赤平は明らかに光を挑発している。 「どけよ、邪魔だ」 「用が済んだら、どくさ」 「くっ……」 光は先ほど買ったビールの入ったコンビニの袋を赤平に向かって投げつけると、右足で地を蹴って間合いを詰める。赤平はその袋を柔らかいタッチで受け止めると静かにそれを地面に置いた。 光は左足を軸に右足を赤平へと蹴りつける。 瞬間、赤平の姿が、消えた。 「な……!?」 赤平は光の頭上にいた。尋常ではない跳躍力だ。 くるり、と回転すると赤平は光の後ろに立った。 「"力"はどうしたの?」 「黙れっ!!」 光は体を回転させながら、赤平の体を確認するが早いか左の肘を打ち付ける。鼻先を見きってそれをよける赤平。続いて右の正拳を打つ光。身を右に回転しながらそれをよけた赤平は左裏拳を光の顔面に叩き込んだ。 「ぐっはっ……ぐぇ」 2メートルほど後ろに吹き飛ばされ、光は地面に倒れた。赤平は怪訝そうに光を見下ろす。 「ふ〜む、本当に"力"のことを知らないらしいな。まだ制御できないのかい?」 「ぐ……ぅ……」 光は歯を食いしばって体を起こした。口から少し血が出ている。口内を切ったようだ。 「最近こういう"力"を使える奴が増えていてねぇ。相手を吹き飛ばす"力"、相手の心を読む"力"、色々いるみたいなんだ」 赤平は"力"について話し始めた。光は、呆然とそれを聞いた。 「まあ俺は経験値集めのような事をしているんだが……、君の"相手を吹き飛ばす力"はなかなか強かったんで、もうその"力"を使えるようになって随分経っているんだろうと期待したんだが、残念だったなぁ」 「…………」 「まあもし"力"に目覚めたら、また、呼んでくれ」 赤平は一方的にしゃべるとその場を立ち去ろうとした。 「もっとも、それまで君が五体満足でいられるかどうかは知らないけどね」 「な……にっ!? どういう意味だっ!?」 赤平は歩みを止めた。 「別に……。ただ強くなればなるほど、自分の危険も大きくなっていくということだ。なまじ強ければ特に、ね」 そして振り返る。 「君は、誰だ?」 赤平の視線の先、光の後ろの闇の中から現れたのは、ヒカリだった。 「く、来るなヒカリっ!」 「でも、お兄ちゃん……怪我……」 「そうか、妹か。同じような匂いがするな」 赤平が笑みを浮かべる。「やばい!」と、光は動こうとする。が、赤平の動きの方が早かった。 赤平は掌(てのひら)を前に突き出した。 「お前の力も見せてみろ」 「や、やめろっ!!」 光の叫びもむなしく、赤平の手からは"力"が放たれた。 ゴ、ゴゴ、ゴッ!!! 空間の歪のかたまりのようなそれは、掌の前で蓄えられるとヒカリめがけて飛んでいく。 「な、なな、何?! キャーーー〜〜−−〜!?」 「ヒカリィ―――ッ!!」 そして……。 ド……パァ――――――ッ!! "力"は、ヒカリに直撃した……。 「な……な……!?」 ……はずだった。 「馬鹿なっ!?」 赤平が叫ぶ。赤平は掌を前にまだ"力"を送りつづけている。 その"力"は大きな流れとなってヒカリへと向かっている。 「ひ……ヒカリ??」 そしてそれは、ヒカリの前で拡散し、消えていく。 「……そうか……お前の力は、ディフェンス……」 赤平は"力"を止めると、もう一度集中力を高めていく。 「面白い。なら今度は本気で撃たせてもらう!」 ヒカリは、ただその場で身構えるしかなかった。 赤平は空手スタイルで身構える。壁際では光がよろよろと立ち上がる。ヒカリは、道の真中で腕を前で交差させて震えている。 「お前のその"バリア"がどの程度のものか、見せてもらおう」 言うと赤平は地面を蹴った。 「ひっ……!」 常人の速さではなかった。次の瞬間赤平は最高速で突進する。 「!!」 そしてヒカリの前で大きくジャンプすると、ヒカリを飛び越え、前廻り受身のように着地し、顔を上げた。 「き、貴様っ!?」 赤平の頬を汗が流れる。表情から察するに、それは冷や汗だった。 ヒカリは何が起こったか分からずに振り返り、そしてもう一度振り返った。そこには…… 「お兄ちゃん?」 そこには、拳を突き出していた光がいた。 そして、その向かい側に石が転がる音がした。 「え……ま、まさか??」 壁が、ブロックで出来た壁があきらかにえぐられている。 光は赤平がその横を通りすぎる瞬間に拳を突き出し、"力"を放出していたのだ。 「なるほど……、この妹がトリガー、か」 「こ……ろ……す」 光は右拳を引いた。 「面白い言葉だ。来い。俺は田川とは違うぞ」 赤平もそれに応じてしまった。 二人の周りを張り詰めた空気が漂う。その光よりの片隅で、ヒカリは小さく震えている。 ―――止めなくちゃ。これじゃぁ、あの時と…… ヒカリは必至になって口を開こうとしていた。しかし、畏縮は簡単には解けない。 二人はじりじりと間合いを詰めていく。 「駄目」その一言は、まだでない。 二人は、ヒカリの前で、突進した。 「だ、だめぇぇぇ−――――!!!!」 ……………………。 ………………。 …………。 ……。 声は、光に届いた。 「う、うあぁぁあぁぁああっ!!!」 「くっ!?」 激突は、直前で回避された。 赤平は信じられずそこにいた。突進していったはずの光が、目の前で消えた、のだ。 「消えた!? 後ろかっ!」 赤平は一瞬光を見失いながらも、その姿を振り返り確認した。 光は飛んでいた。赤平の体を飛び越えていた。しかしいくら目の前に迫った状態だったとて、飛び越える残像すら見えなかった。あの飛び込みのスピードから、さらに1段階速くしたと言うのか!? 赤平は驚愕と憎悪と恐怖と、そして歓喜を感じていた。 光は両手で頭を押さえて震えていた。 殺意に流されては駄目だ。自分の意識で"力"をコントロールするんだ。それが出来ない限り俺は滅びる。死ぬしかない。暴走する前にっ……。堪えろ、堪えてくれっ!! 光は両手で頭を押さえて震えていた。 「どうした、構えろ。やはりお前の力もなかなかのもののようぢゃ無いか」 「……くっ……」 光は、殺意と自分の意識の狭間で、必至で自我を保っていた。 どうすれば良い。このまま戦ったら確実にこの"力"はコントロール出来なくなってしまう。そもそも、そうなったとしても勝てる相手なのか。いや、それよりもその状態で勝つと言うことはつまり、あいつを……。 光は動かない。 赤平は小さく舌打ちすると左足を半歩前に出し、体を右へ少し回転させ、両拳を腹部のあたりで構えた。 「お前は、こっちの戦い方が望みかっ!?」 言うと赤平は両拳を勢いよく前に突き出した。 「くそおっ!!」 光は心の枷をはずそうとした。 「駄目っ! お兄ちゃん!!」 バチィィィ――――ィィ!!! 「ひ、ヒカリっ!」 "力"は、光とヒカリの直前ではじかれた。 「お兄ちゃんごめん。"力"の事妙に意識させちゃって。……ごめん! あたしが守るから! 守ってみせるから!!」 「!! ヒカリ……」 「くぅ〜〜。相変わらずの防御力だな、おい♪ なら、肉弾戦だっ」 地面を蹴り、赤平は再び突進する。 「…………」 光は何かをつぶやき、そして"力"を放出し始める。 突進を始めた赤平は、その行程の中ほどで立ち止まった。 「ヒカリ、下がってろ。ここからは、俺の幕だ。妹に守ってもらう兄貴なんて、情けないしな」 「で、でも」 「安心しろ。正気だよ、俺は。行くぞ、赤平!」 不安そうなヒカリの横をゆっくりと赤平の方へ歩き出す光。その姿は明らかに先ほどまでの光とは違っていた。光の中で何かが吹っ切れたのだ。 「フ、フフフ、フフ」 赤平は歓喜に震え、笑う。そして空手スタイルで構えた。と、赤平は瞬間間合いを詰める。光の死角への赤平の攻撃。しかし。 「!!」 くるり、と上へ回転した光はブロック塀の上まで跳んで着地し、拳を引いた。 ―――来る!! 赤平は集中力を高める。光は拳に"力"を集め始めた。 「だぁあぁぁぁああーーーっ!!!」 気合一閃。光は拳を突き出した。"力"はあやふやな塊のまま赤平に突っ込む。 「くうぅ〜〜〜」 びりびりと体中に走る手応え。しかし、赤平はそれを受け止めたのだ。 「ちぃっ!」 光は壁を蹴り、斜めに赤平へ突っ込む。赤平も迎え撃つ。 光は空中から右中段前蹴り、かわした赤平は足を蹴上げる。その蹴り足をさらに蹴って光は赤平の体制を崩す。そして着地して刹那ののち光は拳を引いた。 ヴゥゥゥゥゥ――――――ッ!! 低い、唸るような音と共に光の拳に"力"が集まる。 体制を崩された赤平は即座に体制を整える。が、その瞬間だった。 「だああああ―――!!」 「ぬぅっ!?」 ドッパ―――――ッ!! 今度は確実にヒットした。その歪みの流れは赤平を巻き込んでヒカリの横を通りすぎ、十数メートルの先へと吹き抜けた。 「ハァ、ハァ……ハァ……くそう……」 戦いは、まだ、終わらない。 赤平はゆっくりと立ち上がった。肩についた埃を払いながら何事も無かったかのように口を開く。 「"力"の使い方がなってないな。まだまだ威力が逃げてるぞ」 光は動けなくなった。恐怖した。強い。そう感じた。 そして、戦いの向こうにある「死」すらをも予感した。そう、戦いの前に聞いた一言が頭をよぎる。 ―――強くなればなるほど、自分の危険も大きくなっていくということだ。なまじ強ければ特に、ね。 「くそう。負けられない。ヒカリをっ……守るっ!!」 光は地を蹴って赤平へ向かう。一歩、二歩でその加速は今までにない速度を生む。 「お兄ちゃん……」 ヒカリの横を通り、光は最速で赤平に突っ込んだ。 「何っ!!」 そして、その光の目の前から、赤平は消えた。 「まだまだ、スピードも技も俺のほうが上……だなぁ」 「頭上っ!?」 直上からたたきおろされた赤平の膝は、かろうじて避けた光の肩を捕らえた。 「ぐああぁぁーーー〜〜〜っ!!!」 悲痛な叫びと同時に崩れようとする光を赤平は着地と同時に更に蹴上げる。それをもろに食らった光は2メートルほど後方に弾き飛ばされて地を這った。 「"力"の使い方は何も放出するだけじゃぁ無い。体に纏うも良し、拳や蹴りの威力を上げるも良し。その人物の想像力と技量によってどうとでも扱えるんだ」 「ぐ……う……ぅ……」 必至で立ち上がろうとする光の耳に、赤平の声はまるで遠くから語られるかのように響いていた。 「また、強くなったら呼んでくれ」 「ま……待ちなさいよ」 立ち去ろうとする赤平を呼び止めたのはヒカリだった。 「つ、次は私が相手に……」 「震えてるぞ。やめておくんだな」 「わ……私にだって、"力"はあるわ!」 「よすんだヒカリ」 「お、お兄ちゃん」 二人の間で、光はようやく立ち上がった。 「ほう、もう立ち上がれるとはな」 意外そうな顔をして赤平は言い放った。 「最後の最後まで、手加減しやがって」 光は必至で立ち上がると赤平につぶやいた。 「こんな街中で人殺しも無いだろう。それに、その"力"には興味が持てる」 「敵になるぞ、お前とは……」 「前に言ったはずだ。今は経験値集めをしていると。敵は必要でね」 やっと立ち上がった光と、呆然と立ち尽くしているヒカリを背に、赤平はゆっくりと街の中に消えていった。 「自らに戦う理由を作ることは無いさ」 「うん……」 赤平を見送りながら、光はヒカリにつぶやいた。 「それにしても、どうやらお前の言う通り、俺にも”力”があったようだな」 赤平の姿も見えなくなり、暗い小路に取り残された二人はゆっくりと話し始めた。 「まだ慣れてないのかな。でも、俺もこの"力"使えるように、努力してみるよ」 「ご、ごめんね」 「え?」 「お兄ちゃんに、私、隠し事、してる」 「…………」 「孤児院にいた頃の事、一つだけ……」 「…………」 「でも、言えないの。言っちゃいけない気がする。でも、その"力"が本当に使えるようになったら……きっと言える」 光にはヒカリのその言葉の意味がわからなかった。が、やや沈黙のあった後に、 「あぁ、わかった。その時が来るにしろ来ないにしろ、"力"は使えるようにする。中途半端は破滅の元のような気もするからな」 「うん」 「あ、やべぇ。そう言えばさっきビール思いっきり振……」 「……ま、いっかぁ」 二人の声は静かな小路で綺麗にはもってこだました。 光は布団に入ってもなかなか寝付けないでいた。 金曜日の昼、アキの言っていた超能力の存在。そして土曜日の夜、鳥居の公園での騒動。そして今日、月曜日。この数日間で、16年生きてきた以上の経験が過ぎ去ったようにすら思える。これからどうなっていくのだろう。"力"はどうなっていくのだろう。そして、ヒカリの言っていた「孤児院にいた頃のこと」とは、いったい何なのだろう。 赤平は小さな公園まで来ると、灯りの灯った下にある小さなベンチに腰掛けた。そしてため息をつき掌を見る。とたんに恐怖と歓喜が湧き上がる。 掌は火傷のような傷を負っていた。 光を一気に倒した最後の攻撃は確かに本気を出していた。手加減をすればもしかしたら危険だと感じたのだ。まだ"力"を使い始めて数日と言う男が、俺に近い"力"をすでに使おうとしていると言うのか。だとすれば、本当の敵になっていくと言うのか。 それぞれの夜は、静かにふけていった。 第1話 「覚醒」 了 男 :やろぉぉーーーっ! 男 :つぶしたらぁぁぁぁぁ!!! 光 :てんめぇぇーーー!! 山鹿:戦いは、常に自分を優位に立たせる事さ。 光 :ふぅーーーっ、ふぅーーーっ。 山鹿:フ……フフフ、おい、こいついったい何だ? ヒカリ:お兄ちゃん……。 光 :ヒカリに……ヒカリに何をしたぁっ!? ヒカリ:だめぇっ! 正気に戻ってぇぇーーーっ!! −−−−−−−−第二話 喧嘩 光 :これが、"力"の使い方だ。 事後の言い訳を聞いてみる 前のページへ戻る 次のページへ進む 小説トップページへ戻る |