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ページ2 アキの思いもよらぬ告白に、光は困惑を隠せずにいた。 「な……何なんだ、それは?」 「昨日、工事現場から公園出るまで、ずっと誰かに付けられてたみたいで……」 「あほ。そんなの、近道せずに帰れば良いだけじゃね〜か」 「公園は通らなくても良いけど、工事現場通らないとホントに遠いんだからね!!」 「な、何威張ってんだよ、ったく」 「と、とにかく、しばらく一緒に帰ってよ。ね、交通費は出すから……」 「おいおい……」 なるほど呼び出されたのは光とノブを比べて、頼り甲斐と頼り易さで光に軍配が上がったわけだ。 それにしても事態は深刻かもしれない。アキに犯人の限定など出来るはずも無い。これだけ派手な性格をしていると、味方も敵も多い。ただのストーカーならまだ良いが、もしも恨みが入ってくると、性質(たち)が悪い。 「じゃあとりあえず今日は俺も一緒に帰ってやるよ」 「ホント?」 「ああ」 「じゃあ今日のボーリングは決行ね♪」 「ぬっ!?」 明るい内に人ごみの中帰れと言うべきだったと気付いた光だったが、ときすでに遅しであった。 結局五人はボーリングへと繰り出し、あたりはすでに薄暗くなっていた。 「ボーリングになると、ノブの存在感あるね」 「そりゃあ一応球技繋がりって事で……。でも、今日は光に負けちゃったかぁ〜〜」 「いやぁ〜〜、おごりで飲むジュースは美味いねぇ」 光は3人と駅前でアキを見送り、用事があると言って抜け出して、ホームでアキと合流した。 このあたりの住宅地も、本長篠から大野、湯谷へと、発展は広がりつつあった。時間四本程度の各駅停車は、湯谷や中部天竜へと走っている。それでもアキの通う鳥居や一つ向こうの長篠城駅付近は、合戦場公園を中心に、自然がまだ多く残されていると言えよう。 建設中の東郷バイパスを遠くに見つつ、二人は鳥居駅へと到着した。 「じ、じゃあちゃんと着いて来てね」 「おう、また明日な」 「ち、ちょっ」 「冗談だ、冗談。早く行けっての」 アキを先に行かせると、光は待合室で「ふう」とため息をつく。二三度振り返ってアキはゆっくりと動き出す。そして、光もアキの後を追おうとした時だった。 「これってどーゆー事なの?」 聴きなれた声に光は思わず声を裏返した。 「ヒカリ!?」 そこには、ヒカリがいたのである。 「駅にアキちゃんと入っていくのが見えたから、実は二人ってそういう仲なのかな〜とか、なんとなく気になって着いて来ちゃったんだけど……なんで別れてるの?」 「あほ。……、ちっ、説明は後だ。着いて来ると危ないかもしれないぞ。詳しく知りたけりゃ心でも読め」 言うと光はヒカリの手を握った。ヒカリは人に触れることで、その人の心を読む。光も何度かぞっとする体験を経験済みだ。そしてすぐ手を離すとアキの後を追う。ヒカリも光の後ろを着いて来た。 アキは工事現場を通り抜ける。小さな道の両脇で、アパートだか小さなオフィスビルだかを建設しているらしい。そこを抜けると目の前にT字路。左は神社に突き当たり、右は公園をこえて折れ曲がっていく住宅路だ。この公園を突っ切っていけば近い家だが回り道をするとなるとなるほど確かに遠いのである(と言ってもたいした道のりじゃあない)。 少しためらいながら、アキは公園へと入っていく。 そしてすぐに、事件は起きた。 「ななな、何? 何?」 三四人の男が、アキを囲ったのだ。 「お前が鶴岡とか言う女だな?」 どうやらそのグループの頭らしき男が問い掛けた。アキはいきなりの急展開に流石に何もしゃべれなくなっていた。そしてそれは、着けて来ていた光達にも確認できた。 「まずい、ヒカリ、ここで待ってろ」 光が公園に入ると、男たちの視線は複雑に動き、交錯した。 「誰だ、お前は!?」 「そいつ知り合いだよ。アキに何のようだ?」 「悪いな。個人的な問題なんで、他人には関わって欲しくない」 厭な笑みを浮かべ、男は光を睨み付ける。光はたじろいだ。家の近くに道場があり、見よう見真似で護身術らしきものは知っているものの、あれは逃げるための術(すべ)だ。それに今対峙しているこの男は、かなり強い。そんな感じがした。 「あ、……あんた」 「へっ、ようやく思い出したか……」 アキが口を開いた。どうやらアキの知っている男のようだ。 「北高の……番張ってる、"のぞき"やってる田川!」 「だまれ!!」 またこれだ。アキ本人は罪の意識は全く無い。大方見間違いか何かでそんな噂を流したのだろう。仮に本当だったとしても、これではアキの身は常に危険と言える。 どうやら、事態は悪化の一途をたどっているようだ。 「お前のせいで俺がどれだけの屈辱を受けたか分かるか」 「な……何よ。ただの噂じゃない」 どう贔屓目に見てもアキの非は明らかだ。光も対応に困っていたが、 「そんなに噂を流すのが好きなら、噂作りに貢献してやるよ」 田川がそう言うと、他の男たちが光を囲った。 「な、何の真似だ!?」 光がすごむ。男たちの後ろで、田川は確かにこう言った。 「噂その1。今夜、鶴岡アキは、この公園で、犯される」 「よ、よせっ!!」 アキは恐怖で声も出せぬままにつかまった。光は男3人に突っ込む。 「うがぁぁぁっ!!」 闇雲に振り上げた光の裏拳が男を一人吹き飛ばした。これで二対一。アキは押し倒されたが必至で抵抗を続けている。羽交い締めにされかけた光は後ろの男に肘を入れ、すかさず前の男の股間を強烈に蹴り飛ばす。そして苦しむ後ろの男に頭上から肘を落として田川に向かう。 田川も光に気付き、ゆっくりと立ち上がった。アキはもう何がなんだか分からないといった感じで、それでももつれそうな足で逃げ出す。 田川に突っ込んでいった光は、それを軽くいなされて地面へ放り投げられていた。 「ぐぇっ!」 「けっ。俺をあとの3人と一緒にするんじゃねぇよ」 「らしいな」 光も立ち上がり田川に対し身構えた。もうここまで来たらやるしかない。一応友達が襲われかけた訳だし、とにかく逃げられる時間だけでも稼ぐ。光が腹をくくった瞬間、二人の間合いは詰められていた。 「な?!」 速い。光は防戦一方となった。上へ下へと連撃が止まらない。 「ごふっ」 なんとかよけていた光のガードをかいくぐり、腹に一撃、衝撃が走る。そして足の痛みも蓄積し始めた。 ――駄目だ、番長って言うだけあって、強ぇ……。 光は顔面への一撃を食らって遂に倒れた。手足に力が入らない。 「噂変更だ。あいつも手前らの仲間だろ」 田川は公園の木の陰を指差し、不気味な笑みを浮かべた。 光は、驚愕した。 「ひ……ヒカリ!!!」 「……い、いやっ!!」 逃げ出そうとしたヒカリを、田川は簡単に捕まえた。 「ひっ……」 瞬間、ヒカリの体が硬直した。得意の"リーディング"だろう。おそらく田川の憎悪といやらしい性欲の感情が、ヒカリにどっと流れ込んだに違いない。しかし、それで動けなくなってしまったとしたら。 状況は、最悪だった。 「ヒカリっ! 逃げろっ!!」 叫ぶ光。いや叫んでいるつもりなだけだった。ゆっくりと体を動かそうと試みるが、手にも足にもうまく力が入らない。かすれる意識の中、ヒカリが田川に押し倒されるのが見えた。 「や……止めろぉぉーーーー!!!」 光がようやく声を出し叫ぶ。ヒカリも、ようやく声を出した。 「お、お兄ちゃん!! 助け……て!」 「ううっ」 刹那、光の中で、何かが動いた。 眠っていた火山が再び活動し始めたかのように、心の奥の奥の奥底から、ふつふつと湧き上がってくる厭な感情。理性をも追い遣り成長していくかのようなそれは……殺意! 気がつくと、光は両の足でしっかりと立ち上がっていた。 「その薄汚ぇ手を、ヒカリから離しやがれ、くそやろう」 ただならぬ殺気に、田川の動きが止まった。そして、ゆっくりと光を目で確認する。 「馬鹿な……」 それが田川の第一声だった。 そして立ち上がり、もう一言。 「お前……いったい誰だ……」 光はそんな言葉は無視してその一歩を踏み出した。 「ぐあぅっ……がはぁっっ!!!」 田川は何か大きなものにはじかれたかのように後ろへ吹き飛び、数メートルは後ろにあったフェンスへと突っ込んだ。 ヒカリは何がどうなったのか分からぬまま、その場にただしゃがみこんでいた。 光は、田川を指差して言った。 「いいか。今後俺の友達や知り合いに少しでも危害を加えてみろ! 次は…………殺す」 そして光は、がくん、と膝を折り倒れた。 「ば……化け物……め」 続いて、フェンスにもたれるようにしてかろうじて立っていた田川も、その場に崩れ落ちた。 アキの通報で警察がそこに駆けつけたのは、それから数分の後だった。 ……つづく 前のページへ戻る 次のページへ進む 小説トップページへ戻る |