=プロローグ  新時代=




----2010年 東京
 けたたましいサイレンが鳴り響き、新宿、渋谷、神田、中野、新木場。ありとあらゆる街がパニックに陥った人間たちで埋め尽くされていた。警察もただただ逃げろとしか叫ばない。
 遷都計画が実行されたのが八年前。静岡県西部、浜名湖を中心に新東京市が作られ、政治の舞台は次々と移されていった。そしてその北西部、愛知県に新城市を中心に東三河市(第二新東京)が作られ、教育の中心という名目のこと発展を始めていた。
 さりとて一千万人を超える旧東京都の人口である。未だ商業、サービス業、印刷業などの中心地であるのはそのままで、人口流出もある程度に留まり、日本一の人口は相変わらずだった。
 その全域に退去命令が出たのは9月4日の昼だった。
 ヴァァァァァーーーーーーォォォォンンン
 凄まじい音と共に四ッ谷付近から放射線状に突風が吹いた。
「マイクロバースト!?」
「違う! そんなんじゃないぞ!?」
 気象局に続いて各大学や機関が実施しているありとあらゆるデータに異常が起こる。
「四ッ谷付近に高エネルギーの集中体が……これは、未確認物質……!?」
「あ、あり得ない。爆弾の類ではないぞ。マグニチュードを測れ! そっちの班は震源を探れ! それから各所にデータを送れ! 大阪、札幌、どこでもいい、遠くにだ!!」
 混乱は瞬く間に広がった。そして情報が飛び交う前に新たな現象が起こる。凄まじい光の柱が上空に向かって走った。そしてそれが、人々の心を震撼させたのだ。
 退去命令は、人々のパニックによって掻き消された。
「高エネルギー反応尚も上昇しています! 微弱な震度はなおも持続。?、……中心部より、三つの出所不明の周波数が検地さ……」  そして、東京は最悪の方向へと走り出した。


----2026年 新東京
あの日。2010年の秋の日。東京が壊滅してから十五度目の春。二度目の一極集中は静岡県から独立した新東京都新東京市へと移っていた。旧東京は東京湾東京新港へと形を変え、旧東京の陸地部分は埼玉県に合併され、新東京を筆頭に大阪、札幌、新埼玉の三大都市構造が、日本の発展の形になっていた。


----同年 東三河市(第二新東京)
「は〜やくしろよヒカリ!」
「待ってよぉ」
 市北部丘陵地にある東郷高校に通う兄妹がいた。どうやら彼らがこの物語の主人公、神野光(かみのひかる)と、神野光(かみのひかり)、その二人にようである。
 二人は双子であり今年十五歳(十六歳になるけど)の高校一年生。桜の花びらが舞う緩やかな、しかし長い坂を上り、波乱の高校生活は幕を開ける。





「は〜やくしろよヒカリ!」
「待ってよお兄ちゃん」
 俺の名前は神野光。後ろから走って来ているのは妹のヒカリ(基本的に「ひかる」は「光」、「ひかり」は「ヒカリ」と表記する)。双子だから妹と言っても同じ年だが向こうは敬語を使うのが通例となっている。物心ついた時から俺は兄だ。
「俺なんか放っといて先に出ればいいだろ!」
「でも……放って……おいたら……絶対……ねぼ……ふぅぅ」
 はっきり言って俺は朝に弱い。健康的な若者は遅寝遅起きが基本なのだ。しかし中学時代も遅刻は少ない。この坂はロードワークには適している。もっとも坂の途中の中学に対して高校は頂上だから実を言うと一寸きつい。明日はもう少し早く起きるとしよう。
「どうせ爺っちゃんが起こすのによ」
「でもぉぉ」
「分かった分かった。もう歩いても間に合うだろ。行くぞ」
「うん」
 暖かな日差しを受け、坂を上る。ヒカリも後ろからちょこちょことついてくる。
 そう、ちょこちょこだ。こいつの背は小さい。俺もそんなに大きい方ではないがそれでも目線を合わそうとするとその差は意外と大きいことに気づく。
 ちなみに二人は双子だ双子だと言ってはきたが実はよく分からない。二人とも孤児なのだ。孤児院から同じ家へもらわれたのだが、そのころからいつも二人でいたらしい。
 名前が、漢字で書くと同じなので当初は今の親(年が離れているので"じっちゃん"と呼んでいる)が名前を替えようとしたらしいが俺たちは名前に異様な愛着を見せたという。本ト、この名前はややこしい。でも未だにこの名前は替えたくはない。何かあったのかな?
 そう言えばもう一つ自己紹介トピックス。俺の、といっても双子だから二人の誕生日。2010年の9月4日なのだ。
 そう、あの東京壊滅の日。不吉と言えば不吉だが、自慢と言えば自慢だ。もっとも孤児故にはっきりとは分からないらしい。
 あの壊滅は旧東京のありとあらゆるデータをも吹き飛ばした。一時は治安もかなり乱れ、埼玉や神奈川には都市部の警護に自衛隊が介入するほどだったらしいが、それを持ち直せたのは……日本人らしいと言えば言えるのかもしれない。
「お前、C組だっけ?」
「うん。お兄ちゃんA組だよね」
 互いの教室を確認しあい土間(といっても中も土足)でヒカリと別れた俺は、自分の教室へと向かった。
 しかしとにかく新鮮味に欠ける。なにせ地元の中学から上がった腐れ縁共がわんさといるから始末に負えない。しかも入学式翌日たる今日から既に六時限授業。別に成績が悪すぎて出たくもない、というわけではない。訳ではないがこれが悲劇と言わずして何と言えよう。
 掃き溜めの蔓としては親友のノブ(相馬信宏♂)と悪友アキ(鶴岡アキ♀)がいることだろう。幸い席もそう遠くないので授業中も退屈だけはしそうにない。
 俺達兄妹とノブ、アキ、それにD組にいるユミちゃん(遠野由美♀)を含めた五人がだいたいいつもの"馴れ合い衆"と言ったところだ。


 やっと六限の授業が終わり一息つくと、アキがノブを連れてやって来た。
「ハァイ」
「じゃな」
「ち……ちょっと待ちなさいよぉっ!」
 いつも通りの挨拶を交わすとアキが話を持ちかけてきた。
「明日の金曜日って授業午前中だけなんでしょ?」
「……カラオケだなその言い方は」
「アハハ、分かる?」
 左手で頭を掻きながら少し舌を出す。アキの癖だ。事あるごとにイベントを作り、騒ぐだけ騒ぐ。多分それがアキの友人の作り方であり自分のストレス発散法であり趣味、なのだろう。
「で、行くの? ノブは又いつもと同じ事言うしぃ」
「俺が行けば行くってか」
「本ト、我が無いのよねぇ〜」
「そ、その論理の飛躍何とかなんないの?」
 ノブも言い返す。
「うっさいわねぇ。自分のこと自分で決められないような男に文句言われる筋合いはないわよぉん」
「僕はただ……もういいよ」
「ふふ〜ん」
 ノブの負けるが勝ち。と言いたいがそれも相手によりけりだ。当のアキは負けたと思うどころか圧勝したとばかり調子づいてしまうのがおちだ。ノブももう少しその辺を学習してほしいものだ。勝ちすぎず負けすぎずというやつを。
 まぁ、無視ってのが一番いいと俺が悟ったのはもう二年以上も前の事なわけだ。
「で、光はどうするの?」
「……ユミちゃんが行くなら行くよ」
 俺は思いきり不自然な笑みを浮かべてやった。
「あんた喧嘩売ってんの?」
「当然♪」
「ムッカッツック〜 凸( ̄へ ̄)」
「ははっ、そうムキになんなって。行こうぜ、ユミちゃんとヒカリも呼んでさ」
「……さ、最初からそう言いなさいよぉ」
 その日はC組とD組に寄って二人を呼び出し、久しぶりに五人で家に帰った。アキだけは二つ向こうの駅から通っている。つまり駅までは五月蠅いわけだ。まぁそれも又アキの面白いところなのかもしれないが……。


「相変わらずぎりぎりに起きるんだからぁ、もぉぉ」
「うるせぇ。どおでもいいからもうちょい早く走れ!」
 日が変わった金曜日。俺は又も健康的若者の生活をしてしまった。やっぱり生活サイクルの微妙な調整は難しい。
「間に合うかなぁ」
「知らん。お前のその速さぢゃぁきついぞ」
 家を出て小路を川まで走り堤防を抜けて橋を渡ると例の上り坂が始まる。その途中に踏切があって右側に駅だ。JR飯田線の三河東郷。二昔前は単線の随分と寂れた感じの駅だったらしいが、その頃の面影など全くないと言っていいだろう。俺が生まれた頃と比べても全く違うのだから。飯田線の複線化が始まったのが十数年前。今は佐久間駅(静岡県佐久間市)まで複線になっている。ちなみにアキはと言うと、北へ二駅、鳥居駅から通っている。第二東名が走り、近くに新城北のインターまであって、夜もトラックが五月蠅いんだ、とよく愚痴っている。駅横を過ぎると、その辺にカラオケなど遊び場がたくさんあるわけだが、あとは分かれ道が一回のみ。Y字交差点があって、左に行くと商店街が続き、少し奥に中学がある。そして右折し、急な坂を登った頂上に高校。
 この右折地点までなら自転車で通う気にもなるのだが、流石にここからの坂は……。
「おーい、早くしろ〜い」
 ふと後ろの気配が消えたので振り返ると、ヒカリはもうバテバテだった。
「ハァ、ハァ、……ハァ……。おかしいなぁ」
「何が?」
「中学の頃は、……お兄ちゃんに……走りで……負けた事……なんて……」
「アホ。毎日走って通っていた俺に、負ける要素はない!」
 だ、断言した割に情けないな、俺。と、後ろから同じように息を切らせて走って来るのはアキだ。
「ハァハァ、……げぇっ、遅刻ぅー?」
「いい根性してんなてめぇ 凸( ̄へ ̄)」
 俺の顔見るなりそう叫ぶとはとんでもない女だ。が、口論なぞしようものなら遅刻は確実、別に遅刻自体何とも思っちゃいないが、遅刻があまりに多いと課題が出るから厄介だ。
 俺はヒカリの肩を軽く叩くと「行くぞ」叫んで走り出した。
「あ、ま、待ちなさいよぉっ。私の前走るなぁーっ!」
「あん? 知るか。ぢゃあな、のろま!」
「バカーっ。あんたが学校入ったらそこから後ろが遅刻なんだからぁーっ!」
 無茶苦茶言いやがる。まあとにかく急ごう。今日は授業が午前中だけだし少しは気が楽だ。
 今日も何とかぎりぎりセーフ。入るなりノブが「タッチプレーより見てて面白いよ」などとぬかすから技をかけてやったがしかしもう少し早く起きれないものか。
 この日の授業も滞り無く終わり、俺達は五人で駅横のカラオケ屋へと向かった。
 暖かな日差しの中の登下校。その日常こそが、この物語の舞台となる。





◎次回予告◎
ユミ:そう言えば最近、アキが誰かにつけられてる気がするんだって。
アキ:こ……怖いの! 一人で帰るのがっ!
光 :まずい、ヒカリ、ここで待ってろ!
ヒカリ:お兄ちゃん!!
赤平:そうか……お前の力は……
光 :お……まえ、何か知っているのか!?
赤平:君こそ、何も知らないのかい?
ヒカリ:わたし、お兄ちゃんに隠し事してる……。
光 :どうやらお前の言う通り、俺にも”力”があったようだな。

−−−−−−−−第一話  覚醒

赤平:強くなればなるほど、自分の危険も大きくなっていくということだ。




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