旅 〜第四章〜

 旅の醍醐味はトラブルだ。

 苦労と言うのにはいくつかある。人並みの生活をするために、或いは生きるために要る必要な苦労と、願望や夢、欲望を持ち、それを実現させるために余分に要る苦労。多分大きく分けるとこの二つになる。
 前者は置いておいて後者の苦労。普通に生きていくためには要らない苦労を、夢を持ちそれをかなえようとすべく進んで苦労を受け入れる。その時の苦労は後に記憶として残る場合、果たして苦労として、苦痛として残るだろうか。おそらくこの苦労は楽しかった記憶として残るはずである。
 人が何かをするとき、それを途中で投げ出すものも出てくるだろう。そんな人は苦労を無駄だと決め付け、その苦労が前者の苦労と重なって悪循環し、下手をすれば人生に失望したりしてしまうかもしれない。しかしひとたび達成されれば、達成感、満足感、安心感……、そんなものが体中を覆い、苦労した事すら忘れるくらいにいい思い出が残るだろう。

 我々は旅に出る。そのとき何をもって旅の良さを測るのだろう。旅先の旅館の料理の味、心温かい人との出会い。それもあるだろうしそれも尤もだと思う。しかし一番心地よい記憶は達成感だ。いくら美味い料理があろうと、いくら心温かい人がいようと、そこに自分がどう関わるかによって印象は全く異なってくる。苦労の上に始めて成り立つ達成感。簡単な話自分が捕ってきた魚や山菜を料理してもらった方が美味しいだろうし、他人の苦労が報われる瞬間を垣間見るより自分の苦労が成就した瞬間の温かさを実感した方が感動も違うはずなのだ。
 最初から最後までを調べ上げ、安全のさやの中にいながらにしての旅に、そこそこの感動はありこそすれ良き想い出など残ろうはずもない。時には何の資料も無く出かけてみることだ。現地で次に行くべき、すべき事を調べながらの旅。或いは行程通りに進むべきが断たれた時の苦労。トラブルを乗り越える事こそが、美しき想い出の最高のスパイスなのだ。

 そんな事を思いながら言う。旅の醍醐味はトラブルだ。

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