WAVES:TAPPI

(竜飛、大いに吼える)

 

もともと“WAVE”という単語に複数形の“S”がつくところから、この著者の知識レベルを疑う人が出るかもしれないが、それはそれで結構なこと。ただ、私でさえ“WAVE”が英語の約束事で言う複数形の形をとらない「物質名詞(数えることができない名詞)」であることぐらいは知っている。つまり私なりの理屈を並べ立てると、この撮影行は計画の段階から広域にわたったため、「日本海」を見る地域によって「龍飛(本編)」「奥津軽」「庄内」では全く印象の違ったものになるだろうと思われた。それで、各々の地域の「波」を合わせて“WAVES”としたのである。

実はそれほど難しい理由ではなかったりする。まあ、一種の造語である。それでも納得いかない人は連絡下さい。

撮影行の前編は、「龍飛崎」の撮影に集約される。

上野から青森までは寝台特急「はくつる」という電車で行く。私は3段ベッドの上段が指定ベッドだったので入ってみると写真の通り無茶苦茶狭い。下段、中段とはえらい違いである。天井が蒲鉾状の曲線ではっきり屋根の下で寝るんだな、ということがわかる。当然(?)座ることなどできない。窓などもほんの小さな明かり取りのような窓でおまけに曇って外などまず見えない。このサービスはなんたること。夜行バスの方がよっぽど気が利いているというものである。しかし、浴衣はこれまた写真の通りピシッとしたものでまるでギャグである。このスペースで着られるものなら着てみようと思った。

狭いところが嫌いな私にとってこの寝台電車はまったく悲惨そのもので、本当に長い一夜だった・・・。

青森駅は寒かった。駅から出て電光掲示板を見たら、−1℃と出ていた。ここから龍飛崎を目指すには津軽海峡線に乗り換える。簡単な朝食をとって予定通りの出発である。ちなみに時間的なことでは気になったベイエリアには行くことができなかった。ベイブリッジのようなものが駅の向こうに見えていた。

写真は陸奥湾を列車が北上しているところ。のっぺりした感じである。乗客はとても少ないので窓を開けて撮影した。もちろんとても寒かった。

 

終点の三厩(みんまや)からバスに乗り、一気に龍飛へと向かう。バスの停留所は「竜飛」なので岬にはそこから歩いて行くしかない。竜飛の集落は崖下の狭い縁にできたような細長い形をしていて、帯島という大きな島に囲まれたところを上手く利用して漁港ができている。

写真は、全国でも珍しく必ずといっていいほど掲載される「階段国道」という歩行者専用(当たり前か)国道である。この階段を登って行くと龍飛崎へと行くことができる。

自慢ではないが(自慢になるか?)、この地を訪れるにあたって、太宰治の「津軽」を読んでいた(珍しい・・・)ので、その一節が記されている文学碑もこの竜飛にあることを知った。

階段は結構な登りで振り返り振り返り登った。竜飛集落と帯島の向こうにうっすらと北海道が見えてきた。

坂を登り終えたところに龍飛崎灯台があり、その一帯は広い台地になっていることがその時初めてわかった。竜飛に着く直前に左に分岐していた道路はここに直接来るための道だった。
風もなく、穏やかな海を目の前にして、はっきり拍子抜けの感があった。これ以上ない風と荒れ狂う海を見に来た者としては当然の感想である。対岸は北海道。石川さゆりの「津軽海峡冬景色」が脳裏に浮かぶのも当然であったが、何しろ穏やかだった。

写真は龍飛崎西部の海岸線で袰内(ほろない)海岸という。荒涼とした海岸で人家などはもちろんない。台地の中枢部には青函トンネルの基地があり、記念館などもあるようなことを書いてあったが、こんな時期である、冬季閉館とも書いてあった。残念である。

因みに一番後ろに写っているうっすらした半島は小泊半島である。

台地の上には風力発電用の巨大な3枚羽根の風車が何機か見える。本当にこんなところで役に立つのか、という天気だが散策にはちょうど良かった。後1日いるので今日のところは引き返して三厩周辺を撮り歩くことにした。

この欄には写真はないが、三厩のことについて少し書こうと思う。この三厩の観光パンフレットによると、ここは義経伝説の地のひとつで、平泉から逃れてきた源義経一行が北海道へ渡るための基地とした場所とされている。その真偽はともかく、それだけ歴史ロマンがあるところなのだとそのパンフレットは言っていた。

拍子抜けの龍飛崎から戻り、その伝説に縁のあるその名も「義経寺」に立ち寄ったり、地名の由来にもなった馬つなぎの岩などを見たりした。漁港にも立ち寄り夕方というのに人がいるので覗いてみるとサメがごろごろしていた。後で知った話だが、フカヒレの原料らしい。そんなものを取っているのかと、この地に住んでいる人のそこに住む理由のひとつを知るに至った。

夜、宿でのこと。駅に近い民宿に泊まったのだが、食事は部屋食ではないため食堂で夕飯を食べる。その時、同宿の人がさりげなく私に話し掛けてきた。「あなた、写真されているようですが、お仕事ですか」と。こんなことを聞かれたのは初めてなので「違います。単なる旅行者です」と答えると、「いや、こんな時期に写真を撮りに来るなんて、本格的だね」などと、ちょっといい気分にさせてくれる人だった。
この人はさる有名なプロカメラマンで雑誌の取材で「龍飛崎の風車」の写真を撮りに来たのだという。私はこの時点でその人の存在を知らなかったので、「憧れている写真家は竹内敏信、水越武」などと言ってみたもののあとで調べてみたらこの人は相当な人だった。「ああ、写真を始めた人がよく目標にする人だよね」とその人は言っていたが、その本人の名前を出さなくて良かった・・・、と思っている。もし言っていたら完全にモグリである。

おかげで次の日、その人のレンタカーに同乗させてもらって再度龍飛崎に向かうことができた。その時に知らないことの強みなのか、その人に根掘り葉掘り聞いて「へエー、そういう写真家か」などとわかった気になることはできた。「私、写真誌の選者してますんで応募してくださいよ」などともその人は言っていた。
さらに、話は前後するが2度目の竜飛訪問から帰った後、三厩駅で女性2人組の酔狂な(自分もそうだが・・・)旅行者と列車を待っていたところ、その人がひよっこり待合室にやって来て、「ああ、駅覗いたらまだいたのが見えたから、どう一緒に飯でも。」と私と女性2人を近くの食堂でご馳走してくれた。何とも気さくな人であった。その時に、「これあげるよ」と、ポケット版の写真集を私と女性の一人にプレゼントしてくれた。

こんなことは滅多にないことだろうなと思ったので、長い文になったがここに書き留めることにした。

龍飛崎2日目。天気は大荒れ。昨日の凪いだ天気は一体何だったのかと思わせる豹変ぶりだった。この写真を撮った時はガードレールにしがみつき、前から下から向かってくる風に抗して何とかしたものである。とにかくこんな強い風は今までに体験したことはなかった。写真を撮っている時は感じなかったが、撮影を終えた途端恐怖を感じるような風雪だった。

海が吼えるというのはこのことかと、「これが龍飛か・・・」とこのネーミングのセンスに改めて感心すると同時に、身の安全を確保するために竜飛集落へと降りていった。

傘などはさした瞬間粉砕され、雨よけのフードもどこかに飛ばされてしまった。とにかく怖かった。

プロ写真家からの昼食をご馳走された後、時間がきたので、三厩から津軽半島を南下することにする。
この日の宿泊地は小泊であり、そこは津軽半島の西部で竜飛からは見えるものの一度弘前まで南下してまた北上しなければならないルートをとる。

まったくもってこれだけで半日の移動である。
青森⇒弘前⇒五所川原⇒小泊、という経路だったが五所川原で日はとっぷりと暮れてしまった。五所川原からはバスで相当移動した。途中で眠ったりもした。

写真は三厩駅。荒れ模様の天気なので雪も降ってきた。こちらの雪は降った分だけ積もるようだ。みるみる白くなっていった。

小泊に着いた時はもう真っ暗。街の規模もわからない。雪も降り続いている。
夜のテレビでは西高東低の冬型が続くと言っていた。明日も荒れるのだろう・・・。

WAVES:竜飛編おしまい

続きは、WAVES:奥津軽編で。

 

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