身延プロジェクト

1999,APRIL

 

枝垂桜が撮りたい。世に枝垂桜の銘木は数あれど限られた期間に限られた予算、ましてやたいていは職場の新年度という慌しい時期である。

しかし、行きたいなー、と思った。

そうやって地図を見て考えると日蓮宗の本山身延山久遠寺がどうやら行けそうだということで土曜の午後仕事が終わってからどこかに一泊して桜の写真を撮ろうと行動に移した。この撮影行は久遠寺に行くという目的以外はっきりしたものはなかったのでその他は行き当たりばったりである。1泊2日でもそういう旅行は私にとって見ればかなりアバウトな部類に入る。

それで桜は撮れたのか。それは以下をご覧いただきたい。

土曜の午後、天気は曇天。次の日は晴れるということだったの出てはみたもののこれはこれで時間を持て余す午後だった。東海道線で三島に抜けても富士山は見えないので富士山の撮影もなし。ますます何をして過ごそうか思案に暮れる。そうした時に吉原が近づいてきたので暇潰しに岳南鉄道に乗って沿線の写真を撮ることにした。また俄か鉄道ファンになったというわけである。
この鉄道には2回目の乗車で前に来た時は「赤ガエル」というニックネームの電車が走っていた。この時の車両はステンレスの車両で都心で走っていたもののお下がりである。全線乗ったことはあるので今回は途中の須津(すど)で下車しこのローカル線を撮っていた。周囲は製紙工場で独特の臭気が立ち込めている。途中下車だから耐えられるようなもので、住めと言われても無理だなーというのが率直な感想。実際に住んでいる人がいるのであまりケチはつけられないが慣れているのかと言えば、きっとそうではないと思う。
夕暮れになりめぼしいものもないので富士へと向かい、身延線に乗り換えて富士宮まで行くことにした。

富士宮の駅前のホテルに投宿を決めて、夜の市内を晩飯にありつこうとうろつく。食べたのはカレーだった。
地図を見ると富士宮浅間大社という規模からいっても大きな神社があるので散歩がてら行ってみた。
神社の周り、および参道は桜の並木になっていて、ライトアップもされていることから夜桜を楽しんでいる人もそれなりにいた。ただこの日の夜は寒かった。とてもビールで夜桜という感じではなかったが、来たからにはという気合いの入った人たちもいて盛り上がっているところもあった。まあ、そんな連中がいても閑散としたものなので、ライトアップされた桜を身延のウォーミングアップ代わりに撮っておいた。

翌日早朝、富士宮駅。身延線の下り一番列車で身延を目指す。
身延線を利用するのは今回の旅行で2回目である。1回目は甲府に桃の花を撮りに行った時に酔狂から身延線回りで神奈川に戻ったことがある。しかし、その時は甲府を夕方に出たので身延線を走っている時はほとんど真っ暗で景色はほとんど見えなかった。知り合いにもらった青春18切符のあまりをより欲張って使おうとしたために時間だけが多くかかった旅行でもあった。
西富士宮を過ぎると列車は左に大きくカーブして山の中に入る。平野はここまででここからは富士川を左にのぞみながら身延へと向かっていく。昨日見えなかった富士山がうっすらと見えている。おお、帰りには撮れるか。などと考えた。

身延は山梨県である。静岡県側から入るのは御殿場からバスというのが私にとっては通例だったのでこれはこれで新鮮な山梨入りだった。駅から身延山までは結構な距離なのでバスの利用を考えていたが着いた時間にはなく、タクシーを止む無く利用した。一緒に列車を降りた人たちも身延山に花見に行く風体だったので急ぎケータイで連絡してタクシーをゲット。あとから考えればこの時間(下り始発到着時刻)のタクシー利用以外に身延山を快適に訪れる手段はなかったのだが、私はそんなことは全く知らない。タクシーの運転士氏はこれからこの道路は花見客で大渋滞になるから、まあタクシーの利用もあと少しの時間が限度かな、などと言っていた。

山門前かその上かどちらで降りるか聞かれたので「前」と言って降りた。立派な山門をくぐりそこで見た看板が右の写真のものである。ご覧いただきたい。

久遠寺の「菩提梯子」と言われる石段が私の前に立ちはだかった・・・。下から見ても相当な迫力。「梯子」という表現がとてもよく合っている。前述の看板のことなど思い出すに「体調の勝れない方」「心臓の弱い方」はやはり適さない参道なのだろう。仏道の試練とはここに来て私には相当過酷なものに思えた。重い三脚も持っているので「山門の上」と言っておけばこの「梯子」は回避できたわけである。まあ、ものは試しでせっかく来たから登って行くか、とポンポン登って行ったら半分であごが上がってきた。振り返れば転げ落ちるのではないかという勾配感。後ろに落ちたらまず助かるまい。信者でなくても「宗」の本山でどうにかなるのは洒落にならない。半分より上はもう休み休みで、登りきった時は腿がパンパンに張っていた。

 

そこで見たのが次の光景である。

桜より先にこの撮影者集団が目に入って来たのである。まさに桜をモデルに見立てた大撮影会会場がそこにはあった。天気はうす曇で桜を撮る分には差し支えない条件だったが、このカメラマンの数はいかなることか。カメラだけを持っている人はどこの観光地でも同じようなものだが、三脚を立てているカメラマンの多さでは忍野の富士山撮影以来の遭遇だった。

私は下りの始発で来たので、この人たちは前泊したか車で早朝来た人たちなのだろう.何人かの人と話す機会が会ったが年配の方ほど前泊が多かった。身延山の位置を考えてみても妥当な選択ではあると思った。家族旅行に出ることがもしあったら検討することにしよう。

これが久遠寺の枝垂桜。樹齢300年以上だとか書いてあったような気がする。これからも生き続けることを考えると改めて樹の寿命が長いことを知らされる。
それにしてもこれだけの桜(境内にはほかにも枝垂桜がある)を結果として保護できるのはここが大本山という「聖域」であるところが大きいことは間違いない。いかに宗教に無関心であってもこれだけの桜を撮らせていただけることには感謝したい。

それと境内に三脚を立てること禁止、としてある寺社が多い中、このお寺のカメラマンに対しての寛大なるはからいにも重ねて感謝したい気持ちで一杯である。私だったら期間限定でも入場料を取るだろう・・・。

久遠寺の本堂を出るとこの辺一帯は日蓮宗の寺町のようになっていて写真のように枝垂桜のオンパレードである。桜の枝振りでは樹齢300余年には及ばないが、そこここの風情を作り出しているという点ではこの一帯の方が個人的には好みである。
もちろんその「一帯」にもカメラマン諸氏は散開していて思い思いの写真を撮っている。実にのんびりとした感じで楽しく桜の写真が撮れた。

日が高くなってくると撮影はお休み。夕方まではいられないのでとりあえず身延山を下りて駅へと向かった。
途中、門前町の土産物で「この時期限定」などと銘打ってある「桜まんじゅう」などというものを買ってしまった。本当に当地の限定物に弱い傾向は変わらない。

写真の山が身延山。山の名前にもなっている。久遠寺からロープウエイが出ていて結構この山の上の方まで登れるのだが、混雑を予想したのと山の上の方には桜が咲いていなかったので今回は乗るのを見送った。今度家族で来ることがあったら乗る方向で検討しよう。

さて、この写真を撮ったのはもう駅に程近いところからなのだが、身延山の山門を出てからほとんどと言っていいほど寺方面の車は動いていなかった。大渋滞である。身延山は寺まで行ったらその先には抜けられないのでとんでもないことになっていた。見ていて不憫だったのが観光バスの類で恐らくは今後の日程を大幅に変更しなければならないくらいに動いていなかった。さらには山門までまだ数キロあろうかというところからバスを降りて歩き出しているツアー一行なども散見した。私は徒歩で駅まで歩いて行ったが、その間に対向車線の人に何回渋滞の様子を聞かれたかわからないほど長い長い車の列ができていた。

身延山の枝垂桜、恐るべし、である。

この橋を渡れば身延駅もすぐそこ。昼頃に到着した。下りだけだったので疲れもなく、撮影のダブルヘッダーがもう一箇所でできそうだった。
折りしも特急「富士川」がやって来たので飛び乗るようにして山梨を後にした。

富士山は見えるかな、と富士宮に着く頃、期待して見たがすっかり雲の中だったのでそのままスルーして富士で下車。東海道線上りに乗った。
駅の沿線桜開花情報で「三島大社」が「見頃」とあったので三島で下車。ここでは「花見」に来ている人が圧倒的に多いのでそんな人たちを絡めたスナップ写真を撮りながら、まあこの辺では割りと来ている三島の街を散策して午後は過ごした。

身延の桜を撮る目的は達成できたのでまずまず。行動が1日半というのも疲れが出ないほどほどの撮影行だった。

身延プロジェクト おしまい

 

 

 

 

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